【参観レポ】立命館守山中学校・高等学校 公開授業「育てるAI」
7月17日、立命館守山高等学校にて行われた山内優馬先生の公開授業を参観しました。これは立命館大学とインパクトラボが共同で開発された『育てるAI』を活用した授業実践です。その様子をご紹介します。
逆転の発想 育てるAIとは

今回の実践で使用された『育てるAI』は、生徒が学んだことを「教える」相手としてAIを使うというコンセプトの元、開発されています。開発を担当されたのは、立命館大学情報理工学部4回生の中井勇希氏(立命館守山中学校・高等学校 卒業生)。
これまで、英語教育の現場において、高性能で「賢い」AIは、英語を「教えてくれる」存在としてよく使用されています。しかし、今回の実践では、あえて知識がゼロのAIとして振る舞うように設定されていました。これにより、AIは生徒が「教える相手」となるわけです。このAIはバックエンドで生成AIの技術が使用されています。
元々賢いAIに、あくまでも生徒が教えた内容だけを使って出力させるために、事前に教えた知識のみで答えているか、範囲外の知識を使っていないかを判定する仕組みも組み込まれています。
AIが文法問題を正解できるように教え方を工夫する

実際に授業では、まずウォームアップの活動として、Gemini LiveやChatGPTの音声対話機能を用いて、AIと「EXPO」をテーマに話し、その後、ペアでやり取りをするところから始まりました。
そして授業の後半では、前述の「育てるAI」を活用した実践が展開されました。
今回のテーマは「関係副詞」。生徒たちは、これまでに学んだ「関係副詞」に関する文法知識をこのAIに教えて(入力して)いきました。
その後、AIはその情報を元に、あらかじめ用意された12問の文法問題に回答します。回答する際は、AIの「思考過程」がテキストで可視化され、AIがなぜ正解できたのか、なぜ不正解となったのかを読み取ることができます。
AIがうまく正解できなかったときは、ペアで「もっと良い説明の仕方はないか?」と相談し、表現を工夫していました。AIが間違えた問題から、自分たちの理解が浅い部分に気づいた生徒もいて、自分たちで調べている姿が見受けられました。
最終的には、AIの得点率に基づき、最もAIを成長させたペアがBest Teacherとして表彰されていました。
【授業を参観して】新しい「教え合い」の形

今回、授業を参観し、この『育てるAI』の可能性と今後の課題が見えてきました。
まず、このアプローチの最も画期的な点は、生徒同士の「教え合い」が抱えがちな「教える側・教えられる側」という役割の固定化という課題を解消する点です。相手がAIであるため、生徒全員が「教える側」に立つことができます。これは、これまで実施が難しかった「全員が教える活動」を可能にするものであり、教えるという行為を通じてメタ認知を促し、学習内容の理解を深化させる上で非常に効果的だと感じました。その応用範囲は広く、むしろ英語以外の他教科でこそ、より大きな効果を発揮する可能性を秘めているように思えます。
また、AIが回答に至るまでの「思考過程」が可視化される設計も秀逸でした。これにより、生徒はなぜAIが正解あるいは不正解だったのかを具体的に把握でき、自身の説明や理解が不十分な点に自ら気づきやすくなります。さらに、AIの得点率をクラス内で競うゲーミフィケーションの要素が、生徒たちの集中力を高め、主体的にAIを「育てる」活動への没入を促していた点も特筆すべきです。
一方で、今後の発展に向けたいくつかの検討点も見えてきました。「育てる」という言葉は、本来、継続的な関わりを想起させますが、今回の実践はあくまでも一度に情報を入力する形でした。今後、AIと対話しながら指導したり、継続的に知識を蓄積させたりする機能が加われば、より深い学びにつながるでしょう。
さらに、評価の仕組みについても検討の余地があります。現状の仕組みでは、おそらく「上手な説明」よりも、文法書を網羅したような「知識の網羅性や具体例の豊富さ」がAIのスコアに大きく影響し、プロンプトエンジニアリングが得意な生徒が有利になる可能性があります。もし、より簡潔で的確な説明を高く評価するような仕組み、例えば「短い説明でいかにAIの得点率を上げられるか」を競うような形になれば、社会で求められるような説明・プレゼンする能力の育成に結びつくと考えられます。
総じて、今回の実践は、これまで英語教育における生成AI活用で主眼とされてきた思考力・判断力・表現力の育成とは一線を画し、その土台となる『知識の理解』という段階にAIを活用した、新しいアプローチとして非常に興味深いものでした。しかし、その一方で、AIに教える活動は主に日本語で行われており、現時点では知識の理解に留まっているため、英語の運用能力の向上への寄与は限定的であるという課題も見えました。
今回の実践が示した「AIに教える」というアプローチは、知識の理解を深めることができます。今後、鍵となるのは、この仕組みをいかにして英語の運用能力育成へと繋げていくかでしょう。例えば、教える内容を文法知識から、生徒自身の身の回りの事柄や考えへとシフトさせ、英語で「教える」ように設計することで、知識の定着と主体的な表現活動をシームレスに結びつけることができるかもしれません。
生徒がAIに教えるというアプローチは、今後も幅広い可能性を秘めているように感じました。
