自己研鑽を目的とした生成AIの活用例
本記事は帝塚山学院大学 伊計拓郎先生からご寄稿いただきました。ご自身の英語力を高めるために生成AIを活用されている取り組みについて紹介されています。
AIによる能力拡張の土台には学習者自身の英語力

英語教員としての自己研鑽を目的として、私は2022年の3月から毎月欠かさず和文英訳を実践している。世の中には自分よりもはるかに英語力が優れている人がいる現実と向き合うために、自分の現状を受け止めて地道に努力を続けることでしか英語力は向上しないと意識を改めたことがきっかけである。そんな中、生成AIは登場以来、話題に事欠かないが、生成AIを自己研鑽に取り入れることでこれまで以上に効果を実感しているので、その実践内容を紹介する。
水本(2025)によると、「AIによる能力の拡張は、学習者自身の言語能力の基礎の上に築かれる。学習者自身の受容・生産能力をそもそも向上させなければ、AIによる能力拡張の恩恵は限定的なものとなってしまう。つまり、外国語自体を学ぶことなく、AIによって望んでいるレベルのライティングを創り出すということは不可能である」と生成AIと英語のライティングについて説明している。言い換えると、生成AIによって英語の運用能力を拡大させられることは間違いないが、前提として土台となる学習者自身の英語力が不可欠である。そこで、自力の英語力の向上を図ると同時に、生成AIによる恩恵を体感するためにも、教育者自らが身をもって生成AIを活用していくことが望ましいと考えるため、現在のような取り組み方をしている。

「自力→AI→吟味」のサイクルによる表現力向上
月刊誌の『英語教育』の「和文英訳演習室」のような課題をはじめ、月に2、3題の和文英訳に取り組んでいる。いずれも課題文の長さに関して違いはあるものの、課題となる和文に対して英文を検討して投稿して、その成果に対して講師やネイティブスピーカーから添削を受けるという形式のものである。生成AIの活用の仕方は以下の通りである。

(1) 課題文に対して辞書やコーパスなどを駆使して自力で英訳を心掛ける。
(2) 自分の訳を生成AIに入力して、フィードバックを吟味する。
(3) 批判的に検討して、採用したい表現があれば活用する。
※生成AIによる訳というと一見不正としてみなされそうであるが、日本語文をそのまま生成AIに丸投げしているわけではない。むしろ、「和文英訳演習室」の採点側の姿勢としても、自身の英語力の向上という目的に叶う範囲では生成AIの活用を認めるというスタンスを明確にしている。
<課題文の例>(『英語教育』2025年3月号掲載)
そのなかでも効果が高いとされる高強度インターバルトレーニングは、強い筋トレや全力疾走と緩い運動を繰り返し行うトレーニング法で、通常のトレーニング法よりも…
<自分の試訳>
Especially, high intensity interval training is regarded as effective, and is a workout way in which runners alternately train their bodies intensively, run at full speed, and take relaxed exercise, excelling …
<生成AIによる添削>
In particular, high-intensity interval training is considered effective. This workout method involves alternating between intense weight training, sprint at full speed, and relaxed exercise.
ここでは、生成AIのフィードバックを受けて、①involve -ing:〜することを伴う、②alternate between 〜:〜を交互に繰り返す、といった自身では(読んで理解できるが)思いつかなかった表現を獲得するきっかけとなった。生成AIがない時代では上記のようなフィードバックが得られず、活用できる表現も今よりも限られていたかもしれないが、これからの時代は生成AIによるフィードバックを得ることで、英文の自然さや妥当性のチェックに加えて、表現力の向上が期待できる。また、指導者が生成AIの利点を体験的に把握しておくことで、受け持つ生徒や学生へもリアリティを持って還元させていくことが可能になり、同時に生成AIにも慣れることができるだろう。
実践内容としては特に専門性を必要としないし、極めて革新的なアイディアというほどのものでもない。「これくらいなら自分にもできる」と思う人がほとんどではないだろうか。しかし、「継続は力なり」という言葉の通り、和文英訳を通じた自己研鑽自体は生成AIが普及する前からでも、どれだけ忙しくても毎月欠かさず実践をしてきた。実践を始めた時期と比べて、今のほうが英語に自信を持てているのは、これまでの地道な努力のおかげである。また、生成AI活用によって作業の効率化を図り、教員として英語力を磨く時間を従来よりも確保することもできるだろう。生成AIを当たり前のように使いこなす世代の生徒や学生に負けないためにも、生成AIを積極的に取り入れることで、英語教育の場に還元できるような取り組みを続けていきたい。

生成AIを活用する上での留意点
生成AIが出力してくる英文は自然そうではあるが、課題となる日本語に記載されていないような情報まで過度に補って出力してくることがあるので、和文英訳の回答として相応しいかどうかは自身の目で確かめる必要がある。その点を見極めるためにも批判的な視点を持つことが欠かせない。
- 水本篤(2025)「AIとライティング教育―英語ライティング教育における生成AIの活用と課題―」李在鎬・青山玲二郎(編) 『AIで言語教育は終わるのか?: 深まる外国語の教え方と学び方』くろしお出版
- 『英語教育2025年3月号』73(14) 大修館書店, p.64
当サイト「AI英語教育ラボ」は、AIを活用する先生方のプラットフォームとなることを目指しております。もし紹介したい実践や取り組み等ございましたら、お問い合わせフォームよりお知らせいただけますと幸いです。
