実践事例

英語教師のための生成AI活用 5つの指針|授業での使い方とルール

南部 久貴

こちらの記事は、『英語教育 2025年8月増刊号』に掲載された南部の記事を大修館書店様に許可を得た上で転載しています。


 文部科学省が2024年に改訂した「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドラインは、生成AIの利活用のための参考資料と位置付けられており、学校現場でのAI導入を後押しするものとなっていることは間違いないでしょう。しかし、多くの先生方とお話しする中で、「具体的に何から始めればよいかわからない」「生徒の思考力が低下するのではないか」といった不安から、実際の活用には至っていない学校がまだまだ多いという印象を受けています。

 本稿では、そうした先生方が一歩を踏み出すための具体的な道筋を示すことを目指します。私自身、滋賀県の公立高校教員として英語教育における生成AIの可能性を日々探究しています。その実践を踏まえ、本稿では教師と生徒、両者の視点から、生成AIを安全かつ効果的に活用するための私なりのガイドラインを、具体的な実践例を交えながら提案します。生成AIは、正しく使えば、多忙な教師の業務を効率化し、生徒1人ひとりの学びを深化させる強力なパートナーとなり得ます。

生成AIを「ツール」として正しく位置付ける

 まず最も重要なのは、生成AIを英語教育においてどう位置付けるかです。私たちの目標は、あくまで生徒一人ひとりの英語の言語運用能力を高めることにあります。生成AIは、この目標を達成するための強力な手段、つまりツールの1つであり、活用すること自体が目的となってはなりません。生成AIを使う際には、常に「この活動は、生徒の言語運用能力の向上にどう貢献するのか」という視点を持つことが不可欠です。

 生成AIは言語運用能力を高めるための足場として活用することが推奨されます。英語の言語運用能力とは、単なる知識にとどまらず、実際のコミュニケーション場面で英語を効果的に使う力です。最終的なゴールが、多様な人々と心を通わせる対人コミュニケーションであることを見据え、その能力を育成する極めて有用な足場として生成AIを捉えるべきです。

 例えば、英作文で何を書けばいいか分からない生徒がAIと対話しながらアイデアを整理したり、「この日本語を英語で言いたいけれど、もっと自然な表現はない?」と問いかけて表現の選択肢を広げたり、人前で話すことをためらう生徒がAI相手に間違いを恐れずに何度もスピーキング練習を行ったりといった活用が考えられます。このように、生成AIは生徒が自律的に言語運用能力を高めていく上で、個別最適化された支援を提供するツールとなり得るのです。

 一方で、思考の代替や安易な答えを出すツールとしての安易な使用は制限すべきです。生成AIは思考や対人コミュニケーションそのものを代替するものではありません。そのため、その使用が生徒の言語運用能力の育成を阻害する、あるいは思考力を奪う場合には、明確な制限が必要です。

 例えば、定期考査やパフォーマンス評価などでAIの生成物をそのまま自分の成果として提出することは評価の信頼性を損ないますし、ペアワークやグループディスカッションなど他者とのインタラクションを通じて学ぶべき活動を全てAIとの対話に置き換えるべきでもありません。また、教科書の問いに対する答えをそのまま生成させ丸写しするような使い方は、生徒の思考力を奪うため、課題の出し方自体を工夫する必要があります。生徒との共通理解を図りながら、ルール作りをしていくことが大切です。

 現在でも「生成AI=チートツール」という見方は根強くあります。しかし、だからと言ってその存在に蓋をし、授業で一切言及しないのは、生徒が生成AIを効果的に使いこなす機会を奪うことに他なりません。むしろ、AIがチートツールにもなり得るという事実を直視した上で、いかにして英語学習におけるポジティブな効果を最大化できるか、その方法を生徒と共に探究していくことこそ、これからの教師に求められる姿勢ではないでしょうか。

言語モデルの特性を理解し、批判的に活用すること

 生成AIは魔法の箱ではなく、大規模言語モデル(LLM)がバックエンドで動いています。このモデルは日々進化しており、教師も生徒もその特性を理解した上で利用することが不可欠です。

 まずはモデルの進化とその種類を知ることが大切です。ChatGPT、Gemini、Claudeなど、代表的な生成AIは毎週のようにアップデートされ、その性能は常に変化しています。例えば、現在のChatGPT無料版では、最新・高性能な「GPT-4o」と、速度重視の「GPT-4.1 mini」が利用できます。簡単なブレインストーミングならminiモデルで十分ですが、長文の要約や複雑な英文の添削を依頼する際は、より精度の高いGPT-4oを使うべきです。自分が今どのモデルを使っているのかを意識し、出力の信頼性を吟味することが重要です。

 また、ハルシネーションを前提としなければなりません。生成AIは、もっともらしい嘘を生成する「ハルシネーション」という現象を起こすことがあります。これは、AIが事実を知っているのではなく、あくまで確率的に連続しやすい単語を繋げているに過ぎないからです。特に、歴史的な事実や固有名詞、最新の情報については注意が必要です。この対策として、私は「セカンドオピニオン」を推奨しています。例えば、ChatGPTが出した答えをGeminiにも聞いてみる、あるいは、教科書や辞書、信頼できるウェブサイトなど、複数の情報源と照らし合わせる、つまりファクトチェックする習慣を徹底することが大切です。これは、生徒にも指導していく必要があります。

まず教師自身が、教材研究や準備に積極的に活用すること

 生徒の活用を議論する前に、まずは教師自身が生成AIの凄さを体感することをおすすめします。特に、日々の教材研究や授業準備の効率化において、その効果は絶大です。

 生徒の知的好奇心を刺激する教材準備には、Deep Researchの活用が有効です。授業をより深みのあるものにするためには、教科書の内容に留まらない背景知識が欠かせません。ここで特に役立つのが、特定のテーマについて多角的な情報や信頼性の高い情報源を提示してくれるDeep Research機能です。私は授業準備の際、単元のテーマについて、Deep Research機能を活用して「高校生向けの面白い豆知識や意外な逸話」「このテーマに関連する最近の研究や社会的な議論」などを調べさせています。これにより、自分1人ではたどり着けなかったような新鮮な切り口や情報を得ることができ、それを基にオーラルイントロダクションを行うことで、生徒の知的好奇心を効果的に引き出すことができます。

 また、自作のリスニング問題にもDeep Researchは大きく貢献します。例えば、「現代社会が抱える『フェイクニュース』の問題」をテーマにしたい場合、Deep Researchで関連する学術論文や信頼できる報道機関の記事を複数提示させ、その要点をまとめさせます。これにより、教養に富んだ、信頼性の高いスクリプトの材料を効率的に収集できます。この材料を元に、「CEFR B1レベルでリスニング問題の台本と設問を作成して」などと指示することで、より聴きごたえのあるオリジナル教材を、効率的に作成できます。

安全なアウトプットの相手として、練習に活かすこと

 英語教育における課題として、アウトプットする機会の不足が挙げられます。生成AIは、この課題を解決する画期的なツールです。

 生成AIは、音声対話によるスピーキング練習に大いに活用できます。現在ではChatGPTやGeminiのアプリを使えば、誰でも無料で、しかも非常に自然な音声対話が可能です。生徒は、自分のペースで何度でも会話練習ができます。音声対話機能には時間制限もあるのですが、音声認識(Speech to Text)を活用して文字入力を行って生成AIを使用する方法であれば、ほぼ無制限に会話を続けることができます。

 例えば、京都大学の柳瀬陽介先生がブログで公開されているプロンプト群はおすすめです。特定の役割になりきってくれるAIや様々な場面設定で会話練習ができるプロンプトが用意されています。こうした情報を生徒に紹介し、家庭学習として課すことで、教室外での学習時間を飛躍的に充実させることができます。まずは教師自身が試し、その有効性を実感した上で生徒に広めていくのがよいでしょう。

自らの専門性を高め、学習の伴走者となること

 生成AIの登場により、英語教師には新たな専門性が求められています。第1に、学びをデザインする力が必要です。AIをどの学習場面で、どのような目的で、どの程度使わせるのが最適かを検討し、新しい授業や評価のあり方をデザインする能力です。さらに、計画は立てて終わりではありません。生成AIを活用した実践の場では、生徒の表情や成果物、対話といった反応を注意深く観察し、その手応えに応じてプロンプトを修正したり、次の活動を微調整したりするといった、柔軟で即時的な対応が不可欠です。この絶え間ない改善の連続こそが、指導と評価の一体化の核であり、AIにはできない教師ならではの専門性です。

 第2に、変化に適応し、学び続ける姿勢が求められます。生成AIの技術やそれを用いた教育実践はまさに日進月歩であり、数ヶ月前の常識が通用しないことも珍しくありません。したがって、教師自身が常にアンテナを高く張り、新しいツールや指導法を積極的に試しながら自らの実践をアップデートし続ける、探究的な姿勢が不可欠となります。

 第3に、学習の伴走者としての力も大切です。これからの時代、特に学習意欲の高い生徒は、生成AIを相棒として自ら学びをどんどん深めていくことができます。生成AIの登場により、教師の役割は、知識を一方的に教えることから、生徒一人ひとりの興味関心に寄り添い、学習意欲に火をつける伴走者、ファシリテーターへとより一層変化していくことでしょう。

 これらの力を駆使して生徒の学びを支援していくのが、これからの教師の役割です。確かに、生成AIは、スペルミスをチェックしたり、特定の表現についてフィードバックを与えたりといった、1つひとつのタスクを評価することは得意かもしれません。しかし、1人ひとりの生徒の成長を、年間を通して見守り、深い関わりの中で指導できるのは、人間の教師だけです。AI時代において、この長期的な視点を持った教師による指導の価値は、むしろますます高まっていくと言えるでしょう。

まとめ

指針1:生成AIを「ツール」として正しく位置付けること

指針2:言語モデルの特性を理解し、批判的に活用すること

指針3:まず教師自身が、教材研究や準備に積極的に活用すること

指針4:安全なアウトプットの相手として、練習に活かすこと

指針5:自らの専門性を更新し、学習の伴走者となること

参考文献

柳瀬陽介(2025)「まとめ:AIを活用した英会話練習のすすめ―11個のChatGPTプロンプト(カスタムGPTs)」. https://yanase-yosuke.blogspot.com/2025/02/AI 7chatgptgpts.html

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