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関西大学初等部「生成AI 利活用ガイドブック」に見る、AI時代の学びの設計

南部 久貴

関西大学初等部が公開している『生成AI 利活用ガイドブック 学校と家庭で、安心して使うために』は、小学校段階における生成AI利用を考える上で、とても示唆に富む資料です。本ガイドブックは、2026年3月初版として、関西大学初等部「生成AIリテラシー策定委員会」と2025年度5年生によって作成されたものです。

小学校段階の児童でも理解できるように平易な文章で、簡潔にまとめられている一方で、児童・保護者・教員の視点から生成AIとの向き合い方がバランスよく整理されています。生成AIとの付き合い方を考える際に非常に参考になるガイドブックです。

子ども・保護者・学校が関わって作ったガイドブック

まず注目したいのは、このガイドブックの作成プロセスです。本文には、ガイドブックが「児童の話し合いと編集会議で出た意見、保護者のみなさまの声、そして学校で大切にしたい考え方」をもとに作成されたとあります。

児童・保護者・教員の考えをまとめるのはなかなか骨が折れる作業です。とりあえずガイドブックを出すだけであれば、教員の考えを取りまとめるだけで終わりそうなところですが、児童・保護者の声が入っているからこそ、実態に即したガイドブックになっていると感じます。

生成AIの活用が児童の学習に与える影響については、まだ未知数なところもあり、心配も少なからずあるはずです。そんな中、学校と家庭が考えをすり合わせながら、実際の学校生活と家庭生活の文脈に落とし込んで方針を示すことはとても意義があることです。

小学校段階では「児童が直接入力しない」という判断

生成AIの学校での扱いについて次のような記載があります。

「児童が学校で生成AIに直接入力して操作することは行いません。」(p.7)

ガイドブックでは、学校で児童が生成AIに直接入力して操作するのではなく、授業では教師が用意した生成AIの出力を教材として扱い、確かめ方や考え方を学ぶとされています。

この方針は、小学校段階の生成AI活用を考えるうえで、非常に妥当だと感じます。

生成AIサービスの多くには年齢条件や保護者同意の条件があります。また、小学生は発達段階として、AIの出力を距離を置いて評価する力を形成している途中です。便利だからすぐに使わせるのではなく、まずは教師が出力を教材化し、それを児童が批判的に読むという設計は、教育的に慎重でありながら前向きな判断だといえます。

また、ここで重要なのは、「使わせない」だけではないという点です。児童が直接入力しない代わりに、教師が生成AIの出力を授業の材料として提示します。そして、子どもたちは「AIの答えは本当か」「どのように確かめればよいか」「どこに危うさがあるか」を学びます。

このように運用することで、生成AI時代に必要な批判的思考を育てることに繋がります。

教師の利用もルール化している

もう一つ注目したいのは、ガイドブックが児童の使い方だけでなく、教師の使い方も明確に規定している点です。

学校での扱い一覧では、教師が「教材作りや授業準備の補助として活用する」「出力をそのまま使わず内容を確認して整える」「出力の良い点と危うい点を教材として扱う」「教科書や資料で確かめる学習を組み込む」ことが示されています。一方で、教師がしないこととして、児童にログインIDやパスワードを配布すること、児童の個人情報・成績・健康などを外部サービスに入力すること、出力を確認せずに配布物や評価に用いることが挙げられています。

これはとても大切な視点です。生成AIの学校利用を議論するとき、しばしば焦点は「子どもに使わせるかどうか」に集中します。しかし、実際には教師こそ、教材作成、授業準備、評価、フィードバック、校務文書作成など、多様な場面で生成AIを使う可能性があります。

公開するか、公開しないかは学校ごとの判断で良いと思いますが、生徒と同様に、教師向けにも「ガイドブック」は必要です。教師がどのように使うのか、どこまで使ってよいのか、どの情報を入力してはいけないのか、出力をどのように確認するのかを明確にしておく必要があります。

発達段階に応じた学年別の目安

ガイドブック p.8 より引用

ガイドブックでは、家庭での利用について、学年別の目安も示されています。1・2年生は基本的に使わないか、使う場合も保護者と短時間。3・4年生は、保護者と一緒に、調べ学習の入り口や言い換えなどに限定して活用。5・6年生は、保護者とルールを決めたうえで、自分の考えを中心に、必要な場面で材料として使うと整理されています。

このように発達段階に合わせた目安を示している点は、とても実践的です。つい学校現場では「全員に使わせる」か「全員禁止する」かという二択になりがちです。しかし、学年や発達段階、情報活用能力の状況に応じて、関わり方を変えることが大切です。

「生成AIだけが学びではない」というバランス感覚

同じく重要なのが、「バランスについて」の項目です。ガイドブックでは、生成AIを使うことだけが学びではなく、本を読むこと、人に聞くこと、体験して学ぶこと、自分の手で考えて表現することも、同じように大切にすると述べられています。

これは、AI英語教育においても非常に大切な視点です。AIとの英会話、英文添削、発音練習、語彙学習、ライティング支援は、たしかに有効です。しかし、教室で友だちと意味交渉をすること、相手の表情を見ながら話すこと、うまく伝わらない経験をしながら言い直すこと、教師や仲間から反応をもらうことは、AIだけでは代替しにくい学びです。

学校でしかできない学びは、まさにこのような社会的・身体的・情意的な相互作用にあります。生成AIを活用するからこそ、人と人との対話、共同的な学び、身体を伴う表現活動の価値を再確認する必要があります。

AIを使えば効率よく学べる部分があります。しかし、効率化できない学びの中にも、学校教育ならではの学びがあります。このガイドブックは、そのバランスを丁寧に示していると言えるでしょう。

「うのみにしない手順」は中学・高校でも使える

第3章では、学習での線引きとして、生成AIのOK/NGが整理されています。OKの例としては、調べる言葉を考える、見方を増やす、文章の言い換えや読みやすさを点検する、誤字脱字や矛盾をチェックする、ふり返りの視点を増やすことが挙げられています。一方、NGの例として、答えや文章を丸ごと作らせてそのまま提出する、自分で考える前に結論だけをもらう、自分の考えや根拠が分からなくなる使い方をすることが示されています。

特に参考になるのが、「確かめ方(うのみにしない手順)」です。低学年向けには、「本当かな?と聞く」「本や教科書でも見る」「わからなかったら大人に言う」と示されています。3〜6年生向けには、教科書・本・資料でも同じことが言えるか、理由や根拠があるか、出どころが示せるか、差がある意見もあるかを確認することが示されています。

これは小学校だけでなく、中学・高校の英語教育でも応用できるでしょう。たとえば、生徒がAIに英作文を添削させた場合、教師は「AIが直したから正しい」と受け取らせるのではなく、次のように問いかけ、考える機会を設けることができます。

英語教育の場面に限定した場合の「うのみにしない手順」(筆者の案)
  • なぜその表現に直されたのか説明できますか。
  • 辞書・教科書・文法書・コーパスで確認できますか。
  • 自分が本当に言いたかった意味と合っていますか。
  • 他の表現も考えられますか。
  • その表現を次回、自分で使えますか。

このような問いは、AIの出力を「正解」として受け取るのではなく、AIの出力を批判的に見るためのきっかけとして機能します。

評価は「成果物」だけでなく「過程」を見る

このガイドブックでは、評価についても触れられています。学校の基本方針として、評価は「考えた過程」「根拠」「自分の言葉で説明できるか」を大切にするとされています。

生成AIが普及すると、成果物だけを見て、その生徒がどこまで理解しているかを判断することが難しくなります。整った英文、自然なスピーチ原稿、見栄えのよいプレゼン資料が提出されても、それが本人の理解や表現力をどの程度反映しているのかは、成果物だけでは分かりにくくなります。

だからこそ、評価の対象を成果物だけでなく、思考の過程へ広げる必要があります。

ガイドブックでは、最初から答えや文章を作ってもらい、そのまま出すことは学びが残りにくいので避けるとしています。一方で、言い換え、点検、観点を増やす相談など、学びを深める使い方は役立つとも述べています。そして大切なのは、「自分で考えた部分」と「確かめた跡」が残っていることだと強調しています。

透明性としてのAI利用記録――有効だが、運用には工夫が必要

巻末には、「提出物で生成AIを使ったときの書き方(推奨)」が示されています。記録する項目は、「使った場面」「自分でやったこと」「確かめたこと」「最後に直したところ」です。

このような記録は、評価の透明性を高めるうえで有効です。教師は生徒の学びの過程を見取りやすくなります。また、生徒自身も後から自分の思考過程をふり返ることができます。

一方で、このような記録を残すというのは少し難しい点もあると感じます。毎回、AIとのやりとりを詳細に記録させると、それ自体にかなり時間がかかります。英語を読む、書く、話すという本来の学習時間を圧迫してしまう可能性もあります。さらに、教師がそのログをすべて確認し、評価に反映する負担も小さくありません。

必要なのは、詳細すぎるログではなく、「学びの過程が見える最小限のログ」です。

たとえば、このログの作成自体もAIを使って効率化するのも一つの手だと言えるでしょう。AIとのやりとりの後に、次のようなプロンプトを使ってログのたたき台を出してもらうのも一つの手です。

プロンプト(筆者の案)
今の会話をもとに、学校に提出するためのAI利用記録を整理してください。

生成AIを使った場面

自分で最初に考えたこと

AIから得た助言

教科書・辞書・資料で確かめたこと

最後に自分の言葉で直したところ
この5項目に分けて、短く整理してください。

もちろん、すべて自動化するのではなく、この出力を生徒自身が確認し、自分の言葉で学びを一言二言でまとめる方が学びにつながるでしょう。

ログ作成の負担を軽くしながら、学びの透明性を確保する方法としては有効ではないでしょうか。

「ずっと使いたくなった」という現実的な表現

第4章の「困ったときのサポート」では、子ども向けに、こわい言葉が出た、名前や写真を入れそうになった、宿題を全部作ってもらった、といった場面への対応が示されています。その中に、「ずっと使いたくなった」という項目があります。

この「ずっと使いたくなった」という表現は、非常に現実的でわかりやすい表現だと感じます。

生成AIは、すぐに返答してくれます。質問に答え、励まし、言い換えを提案し、会話を続けてくれます。そのため、学習支援ツールであると同時に、使いすぎや依存の問題も起こり得ます。

生成AIリテラシーは、情報モラルだけの問題ではありません。学習習慣、生活習慣、自己調整学習の問題でもあります。

AI英語教育への示唆

関西大学初等部のガイドブックは小学校向けに作られていますが、英語教育全体に応用できる示唆が多くあります。

第一に、生成AIを「答えを出す機械」ではなく、「考えを広げ、点検し、ふり返るための道具」として位置づけることです。これは、英作文、スピーチ、プレゼンテーション、ディスカッション準備、リーディング後の要約など、英語教育の多くの活動に適用できます。

第二に、AIの直接利用だけでなく、AI出力を教材化する発想です。教師がAIの英文、添削例、誤った説明、複数の表現案を提示し、生徒が比較・検討する活動は、AI時代の言語意識を育てるうえで有効です。

第三に、評価を成果物中心から過程中心へ移行することです。AIを使う時代には、最終的な英文だけでなく、どのように考え、何を参照し、どこを自分の言葉として修正したのかを見る必要があります。

第四に、学校と家庭の連携です。ガイドブックでは、家庭で生成AIを使うかどうかは各家庭の判断であり、学校の学習や宿題は生成AIを使わなくても取り組める形を基本にするとされています。また、家庭での利用有無によって評価上の不公平が生じないように配慮することも示されています。

この視点は、英語教育でも欠かせません。家庭によってAIを使える環境に差がある以上、AIを前提とした課題設計は慎重である必要があります。AIを使える生徒だけが有利になるのではなく、AIを使わなくても学べる課題を基本にしながら、必要に応じてAIを学びの補助として位置づけることが大切です。

おわりに

関西大学初等部の『生成AI 利活用ガイドブック』は、生成AIの学校利用をめぐる議論を、「使わせるか、使わせないか」という二項対立から一歩進めています。そこにあるのは、生成AIを学びの中心に置くのではなく、子ども自身の思考・判断・表現を守るために、学校と家庭がどのような環境を設計するかという問いです。

AI英語教育においても、同じ問いが必要です。AIが英文を直してくれる時代だからこそ、生徒は「なぜその表現なのか」を説明できなければなりません。AIが会話相手になってくれる時代だからこそ、人と人との対話でしか育たない力を大切にする必要があります。AIが学習を効率化してくれる時代だからこそ、学びの過程をどう見取り、どう評価するかを再設計する必要があります。

このガイドブックは、小学校向けの資料でありながら、中学・高校、そして英語教育に関わる教師にとっても、生成AI時代の学びを考えるための優れた出発点になると言えるでしょう。

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