【インタビュー】「もうAIがない世界には戻れない」― 聖光学院中高・髙木俊輔先生に聞く、地に足のついたAI活用と英語教育の未来
今回は、生成AIを先進的に活用し、日々の授業実践に取り組んでいらっしゃる髙木先生(聖光学院中学校・高等学校英語科教諭)にお話を伺いました。授業でのAI活用を始めたきっかけから、具体的な活用事例、ELSA Speakの徹底活用術、生徒たちのリアルな反応、導入時の工夫、そしてAIと共に歩む未来の英語教育の展望まで、多岐にわたる貴重なお話をいただきました。
AIとの出会い、そして授業への導入
南部: 本日はお時間いただきありがとうございます。早速ですが、先生が授業で生成AIを活用され始めたのはいつ頃からでしょうか?また、そのきっかけは何だったのでしょうか?
髙木先生: こちらこそありがとうございます。授業で使い始めたのは2023年の9月ですね。文部科学省のガイドラインが出た直後です。それ以前から、京都大学の柳瀬先生が公開されていたプロンプトを高校生向けにアレンジして使わせていただいたり、構想を練っていました。
💡京都大学 国際高等教育院 柳瀬陽介先生は自身のブログでさまざまなプロンプトを公開されています。https://yanase-yosuke.blogspot.com/
南部: やはり早い段階で活用されていたのですね。AIを活用しようと思われた一番の理由は何だったのでしょうか?
髙木先生: 国立大学志望者が多い学校なので、ライティングの添削がずっと課題でした。どうすれば多くの生徒に質の高いフィードバックを送れるか、と。
2022年12月にChatGPTが登場した時、「これは可能性があるな」と思い、まずは自分でライティングの練習相手として壁打ちのように使っていました。これを生徒たちに使えば、負担軽減はもちろん、フィードバックの質を下げずにバランスを取れるのではないか、これはもう使わない手はないなと。
当時はまだGPT-3.5が主流で、フィードバックがイマイチな部分もありましたが、それでもプラスの面が大きいと感じて踏み切りました。特に、ネイティブではない私にとって、表現の有り無しを判断するのは大変でしたが、その点では比較的信頼性が高いと感じていました。もちろん、出てきたアウトプットを批判的に捉える指導も含めて考えていましたね。
AIは授業のあらゆる場面で活躍
南部: 現在、具体的に授業ではどのように生成AIやAIを活用されていますか?
髙木先生: 今は中学2年生を担当しています。まず授業準備では、教材作成にClaude、ChatGPT、Geminiを併用し、音声作成にはElevenLabsを使っています。授業中には、発音改善のためにELSA Speakを活用しています。
さらに、生徒の自学支援のために、ChatGPT上に様々なGPTsをあらかじめ作成し、生徒たちがいつでも質問できる環境を整えています。例えば、ユーモラスなキャラクターが英文読解の疑問に答えてくれる「英文読解の解説おじさん」や、和文英訳の練習をしたい生徒を手助けするボット、初めて読む英文記事などを意味のまとまり(チャンク)に分けて対訳を生成してくれるツールなどです。このチャンク分けツールは、生徒が長文を読む際のハードルを下げ、理解を助けるのに役立っています。これらのツールは、生徒たちが自学ノートにも「これに聞いたらこんなことが出てきて面白かったです」と書いてくれるなど、かなり活用してくれているようです。
また探究学習を担当している他校の先生から相談された際に、生徒が自ら思考を深めるための問いを考える支援をしてくれるGPTsを作って提案しました。GPTsと対話することで、生徒が特定のテーマに対して思考を深めるヒントを得ることができます。
南部: 様々なGPTsを開発・活用されているのですね。
髙木先生: はい、地味なものをたくさん作っています(笑)。AIの議論は見栄えは良いけれど学習者の姿が浮かびづらい「空中戦」が多いように感じているのですが、ちゃんと学習の中に織り込めるように、地に足のついた使い方をしようとすると、やはりこういう地味な感じになるんですよね。AIを使う授業というとキラキラしたイメージがあるかもしれませんが、いかに普段の授業に落とし込み、ちょっとした不満を改善するために使うかが一番だと思っています。
ELSA Speak徹底活用術:発音指導から学習意欲向上まで
南部: ELSA Speakについて詳しくお伺いしたいです。
髙木先生: ELSAはかなり良いと思いますよ。ELSA for Schoolsの中にはELSA AIという機能があり、裏ではLLMが動いていて、検定教科書ベースの会話練習などができます。
生徒がネガティブなことを言っても、ちゃんと話を引き戻してくれたりしますし、ログも確認できます。このログを生成AIに分析させて、口頭でのエラー分析をさせることも可能です。
私は主に発音改善で使っています。音読課題を出して定点観測をしているのですが、1年間ELSAを使った生徒たちはかなり発音が綺麗になります。ただ、ELSAを使う場合でも、人間のフィードバックが不可欠です。というのも、AIのフィードバックを生徒が完璧に理解できないことがあるので、そこをサポートする必要があります。
南部: 40人クラスなどで、教師が一人ひとり丁寧にフィードバックするのは大変そうですが、何か工夫されていますか?
髙木先生: まず生徒にトレーニングの仕方、音読の仕方を教えます。授業中にできるだけ毎回8分〜10分、ELSAを使って音読する時間を作り、その間に教員が机間支援を行い、どの音が出ていないか、画面上のフィードバックと照らし合わせながら、「ここはこう発音するんだよ」と口の動かし方を直接指導します。これを毎回15人くらいずつ、積み重ねていく感じです。何回かの授業で全員にフィードバックできるよう意識しています。
南部: 家庭学習でも生徒はELSAを使っていますか? 課題などは設定されているのでしょうか?
髙木先生: かなり使っていますね。家庭学習では、授業で扱った英文の音読と筆写を練習するように言っていて、毎日全部やらなくてもいいから、徐々に難度を上げていくよう指示しています。その際に、タスクの1つとして、ELSAを使用していて、ELSAでの練習回数などを記録させています。
髙木先生が実際に使用されているプリント
家庭での音読練習の一つに「ELSA」を取り入れている
発音、抑揚、流暢性の3観点でスコアが出るのも良いようで、ゲーム感覚でやってくれている生徒も多いですね。
「やってみせる」から始まるAI活用文化の醸成
南部: AI導入にあたって、校内で反対意見などはありましたか?
髙木先生: 私の学校は比較的、教員が各自でやりたいことをできる環境なんです。以前からELSAを使っていたこともあり、AI利用への抵抗感は少なかったですね。ライティングの先生と相談し、校長に話をしたところ「いいよ、やってみな」と。実際に生徒たちの前でデモンストレーションをしたら、非常に好意的な反応でした。卒業生も「めちゃくちゃ使ってました」と言ってくれます。新しいことにチャレンジする障壁が低く、周りの理解があったのはラッキーでした。当初は懐疑的な先生もいましたが、使い方次第で納得してくださり、今ではそういう先生もかなりAIを使っていますね。
AI活用の光と影:生徒の思考力をどう育むか
南部: 生成AIを授業で使う上での懸念点や、先生が注意されていることはありますか?
髙木先生: 「鵜呑みにしちゃだめだよ」というのは一貫して言い続けています。
生成AIに対する批判で「生徒たちが考えなくなる」というものがありますが、これは起こりうると思います。そうならないためには、口を酸っぱくして伝え続けるしかない。あとは、単に使っておしまいにならないよう、目的と効果的な使い方をちゃんと伝え、ダメな例も見せる。これは普通の授業と同じですよね。
「考えなくなる」原因は二つあると思っていて、一つは考えなくてもできてしまう課題を出してしまう教師側の責任。もう一つは、AIが直してくれたものをそのまま書く際に、なぜそうなるのかを調べる手立てを持たない生徒がいることです。
しかし、AIを鵜呑みにせず、批判的に吟味する姿勢も育っています。実際に私のところには、「AIではこう言っているのですが、先生はどう思いますか?」と、AIの回答を踏まえた上で教師に意見を求めに来る生徒が増えました。これは、AIを情報源の一つとしつつも、最終的な判断やより深い理解を求めて教師と対話するという、望ましい学びの姿と言えるでしょう。
南部: ChatGPTを使うようになってから、生徒のモチベーションや技能に変化はありましたか?
髙木先生: 今担当している中学生はまだ使い始めて1ヶ月なので技能面は未知数ですが、いつでもどこでも相談できる相手ができたのは大きいですね。疑問をすぐに聞けるようになったことで、学習が円滑になったと思います。また、ELSAを使い始めたことで音声に触れる機会が増え、耳がすごく良くなっています。これがインプットの質向上につながり、ライティングやスピーキングにも波及していくだろうという仮説を持って授業をしています。
AIと創る未来の授業:共同学習から個別最適化へ
南部: 先生が今後、生成AIを活用して挑戦してみたい授業やプロジェクトはありますか?
髙木先生: 協働学習で行き詰まった時のアドバイザーとしてAIを使うのは面白いかなと。例えば、企業のプロのマーケティング担当者(英語しか話せない設定)に、日本のプロダクトを売り込むシミュレーションをするとか。教室のリソースだけではできなかった活動が手軽にできるようになる可能性があります。普段呼べないような人をAIで教室に招くイメージですね。チームで協力しながら、交渉をシミュレーターで体験するのは面白いと思います。こういった活動をすると、伝える内容についてよく知っていないといけないし、伝えるコンテンツを持つことの重要性も実感できるはずです。
AI時代の英語教師:その役割はどう変わるのか
南部: 極端な例では「英語教師はもういらない」という話もありますが、これからの英語教師の役割はどのように変わっていくとお考えですか?
髙木先生: 私は教育評価が専門なのですが、学習者が自分の学習をメタ認知するのは難しいんですね。トップアスリートにもコーチがいるように、学習の初心者である生徒たちには、学習の様子を見てフィードバックを送り、サポートする人が必要です。英語学習に限らず、教師は「学習全体のデザイナー」になっていくのだと思います。どういう目的のもとに、何をどう組み合わせて一つの学習として完結させるか。そのデザインの中にはトレーニングも含まれるでしょう。
そして、学び方を知っていればいくらでも学べる時代になった今、大事なのは「自分で学ぶ力(How to learn)」を教えることです。日本ではこれを明示的に教えることが少ないですが、この部分が非常に重要になってくると思います。
AIの進化は教師の役割を問い直すきっかけにもなっていますが、私が生徒たちに「AIが発展したら教師はなくなるって言ってる人いるけど、君たちどう思う?」と尋ねたところ、返ってきたのは「絶対ないですね。つまんないから」という率直な言葉でした。この生徒たちの言葉は、AIには代替できない人間の教師ならではの価値、特に学習への動機付けやエンゲージメントを高める役割の重要性を示唆しています。結局、私が授業でやっているのは、モチベーターであり、トレーナーであり、デザイナーである、ということだと思います。AIはあくまで、その子に合わせたドリルやトレーニングを作るための「材料」というイメージです。役割が違うんですよね。
AI活用の第一歩:まずは「遊んでみる」ことから
南部: これから生成AIを使い始めたいという英語の先生が、最初の一歩としてどんなことから始めるのが良いでしょうか?
髙木先生: 英文ニュース記事を読みたいものを持ってきて、「これをちょっと分かりやすく要約して」と頼んでみたり、自分が書いた英文メールを添削してもらったり、実際に体験してみるのが一つ。あとは、AIと対話して遊んでみるのが一番いいかなと思います。例えば、「推しについて語ってみる」とか。私は好きなミュージシャンの名前を入れて、その人っぽい歌詞を書いてみて、などと遊んでいました(笑)業務に関係のないことでもいいので、まずは楽しみながら使ってみるのが良いと思います。日本語でも英語でも。
同僚の先生方が「AIでこういうことできる?」と聞きに来て、実際に見せると「うわー!」となって、「じゃあこれもあれもできるかも」とブレストが始まるんです。このブレストが結構大事ですね。
南部: 髙木先生のお話を伺っていると、本当にAIをフル活用されていると感じます。
髙木先生: もうAIがない世界には戻れないですね(笑)。
授業準備では、生徒の興味があるトピックをアンケートで取って、それをもとに文法事項や表現を盛り込んだオリジナルの教材文をAIと作っています。音声はElevenLabsで。教科書だけでなく、そういった自作教材も活用しています。一発ではできないのでリライトを重ね、時間はかかりますが、AIがなければ絶対にできませんでした。
【インタビューを終えて】
髙木先生のお話からは、生成AIを単なる目新しいツールとしてではなく、日々の授業をより良くし、生徒の学びを深めるための強力な「右腕」として捉え、具体的な課題解決のために徹底的に使いこなそうとされている様子がひしひしと伝わってきました。「英文読解の解説おじさん」や和文英訳支援ボット等のGPTsの開発など、その活用範囲の広さと深さには驚かされます。まさに「地に足のついた」AI活用の姿であり、多くの示唆に富んでいました。
インタビュアー:
南部 久貴(立命館大学グローバル・イノベーション研究機構 補助研究員)
詳しくはこちら
※本サイトは、立命館大学 R-GIROプロジェクト「記号創発システム科学創成:実世界人工知能と 次世代共生社会の学術融合研究拠点」の取り組みの一つです。
