【インタビュー】 生成AIを「編集パートナー」と位置付け活用する 大阪教育大学附属池田中学校 中田未来先生の実践
今回は、大阪教育大学附属池田中学校で先進的な実践をされている中田未来先生にお話を伺いました。AIを「編集パートナー」として位置づける活用方法、そしてAI時代における教師の役割まで、示唆に富んだお話をしていただきました。
訂正フィードバックとブレインストーミングで使用
南部: 中田先生は生成AIをどのように授業で活用されていますか?
中田: 私は主に中学2年生において、訂正フィードバックとブレインストーミングで使用しています。ブレインストーミングの方は、少し課題も感じているため、効果的な活用方法を検討している段階です。
南部: 具体的にはどのような課題でしょうか?
中田: 例えば、I want to を使って夢を語るという活動で、「推理をするのが好きだ」という生徒がAIと対話を進めていくうちに、AIが「犯人を推測するための手がかりを言いますね」といったように、スピーチの本筋からズレた回答を始めてしまうケースがありました。
うまく軌道修正できる生徒もいましたが、ズレたまま対話が進んでしまい、内容が深まらない生徒もいたのです。
生成AIをブレインストーミングで使用するためには、生徒自身が「何のために生成AIと話しているのか」という目的意識を持つことと、それを実現するためのプロンプトの改良が必要だと感じました。
そのためには、AIとのやり取りの中で生じるズレに気づき、再問いかけや軌道修正を行う「調整力(=目的意識 × 言語的操作力)」を育むことが重要です。教師は、生徒がこうした対話スキルや目的の再確認を行えるように支援する必要があります。
南部: なるほど。アイデア出しの段階では、生徒側の調整力も問われるのですね。一方で、ポジティブな面はいかがでしたか?
中田: フィードバック機能については、生徒から非常に好評でした。「英語を書くことへの不安が減った」「自信が出た」という声が多く、こちらは今後も活用していける大きな可能性を感じています。
生徒の気づきを促す「段階的ヒントAI」の開発と活用
南部: フィードバック機能が好評だったというお話がありましたが、具体的にどのような工夫をされているのでしょうか。
中田: 内容・構成・語彙・正確性の4観点で返す設計にし、答えをすぐに出さずヒントを段階的に出すように設計しています。これにより、生徒が自力で書き直すことを優先しました。
私の実践は、ZPD(発達の最近接領域)、つまり「自力ではできないが、支援があればできること」の領域を、生成AIの支援によって乗り越えられないか、という考えに基づいています。

AIからのフィードバックも、生徒が読んでも意味が分からなければ効果がありません。そこで、生徒が「読んで理解できる」範囲のフィードバックを得られるように、プロンプトを詳細に設計しました。
生徒にも「読んで理解できるAIの回答を取り入れる」を合言葉に指導しています。
🎯 使用目的:
生徒が「自分のワクワクする未来」について書いた英語スピーチに対して、英検級と改善ニーズに応じた、日本語メインのやさしいフィードバックを生成する。
このフィードバックは、英語の教師が生成AIを活用して、生徒の考えを引き出し、主体的な書き直しを支援するために使われる。
生徒が「自分のワクワクする未来」について書いた英語スピーチに対して、英検級と改善ニーズに応じた、日本語メインのやさしいフィードバックを生成する。
✏️ 作文の語数について:
• 生徒の作文は初期段階では30語程度と短い場合があります。
• その場合でも、生徒が内容を広げたり、理由を加えたり、構成を整えたりできるよう、語りかけるような日本語で1つだけヒントを提示してください。
• **完成目標は60〜120語程度(2分以内のスピーチ長)**です。
📘 英検級の解釈(語彙・構成の参考):
英検級 CEFR相当 特徴
英検4級 A1 I like〜. I want to〜. のような単文中心の基本文型
英検3級 A2 and / because などを使って簡単な理由や順序を表現可能
英検準2級 A2〜B1 具体例やつながりの説明ができ、つなぎ言葉の使用も安定
英検2級以上 B1〜 抽象語彙・複雑な構成・深いメッセージも盛り込める
🔧 フィードバック出力のルール:
• 「〜って英語でなんて言うの?」と聞かれても、ニーズ①のときと同様に、答えを言わずヒントだけにとどめてください。
• 以下の11個のニーズのうち、指定された1つに対応するフィードバックを出してください。
• フィードバックはすべて、生徒が自力で改善できるようなヒントを1つだけ提示してください。
• 必要に応じて、生徒が「他にもある?」と聞いてきたら2つ目以降のヒントを提示。
• 文法修正・添削は行わず、自分の言葉で直せるきっかけづくりを目指してください。
• 生徒に話しかける口調で親しみやすく(例:「〇〇っていう書き方もできそうだね」)
🧭 ニーズ一覧(カテゴリー別・全9項目)
① 英語でなんて言えばいいか分からないとき
→ 生徒が「〜って英語でなんて言うの?」と聞いたときは、すぐに英語表現を教えるのではなく、ヒントを1つだけ出して、自分で思い出したり調べたりして表現できるように促す。
→ ヒントは、以前学習した語や使えそうな語を思い出させる形にとどめる。例文の提示はしない。
ヒント例:
「“つながる”って言いたいとき、どんな単語を使えばよさそう?前に ‘connect’ を見たことがあるかもね。」
「“まとめる”ってどう言えばいいか、前に ‘lead’ を使ったことがあったよね。思い出してみよう!」
🟩【内容に関わること】
② 自分らしさや気持ちをうまく伝えたいとき
→ 「〜した」「〜を見た」など、自分の経験や場面を入れて、理由に自分らしさを出すように促す。
→ 『なんとなく好き』『かっこいいと思った』などの理由に、経験を加えて説得力を出す。
ヒント例:「テレビで見た旅行の場面が楽しかった、だから英語が好きになった、という流れを、まず自分の言葉で英語にしてみよう!」「テレビで見た旅行の場面が楽しかった、だから英語が好きになった、という流れを英語で書いてみよう!」
③ connectionに関する話をしたいとき (夢・他者・社会などとの繋がり)
→ 好きなことと夢のつながり、夢が誰かにどう役立つか、社会との関係などを考えて伝える。
ヒント例:「その夢が、どんな人の役に立つかを英語で書いてみよう!たとえば、『世界中の人を元気づけたい』『子どもたちに夢を与えたい』みたいなことを、まず自分の言葉で英語にしてみて!」「その夢が、どんな人の役に立つかを英語で書いてみよう!」
④ スピーチにぴったりの名言を探したいとき
→ 生徒のテーマやメッセージに合った名言を、英検級に合わせて
① わかりやすい日本語訳
② 英語原文(短め)
③ 誰の言葉か
の3点セットで2〜3個提案する。
🟨【構成に関わること】
⑤ 話す順番や全体の流れをよくしたいとき⑤ 構成全体の順序の工夫(導入・本論・結論)
→ 挨拶・名前・夢(テーマ)の提示 → 本論(好きなこと・理由・自信など) → 結論(夢の再確認と感謝)という流れに整理できるように促す。
→ 「日本語的に夢が最後に来る構成を、英語的に“結論ファースト”にすること」を特に意識させる。
💡 フィードバックの型(テンプレート)
「スピーチの流れをもっとわかりやすくするために、“My dream is〜”を最初に言ってみるのがおすすめ!そのあとに、どうしてそう思ったのか(好きなこと・経験)を話すと、聞き手がすぐにテーマを理解できるよ。」
✍️ 具体的な修正ポイントのヒント
1️⃣ 【導入】
→ 「Hello, my name is〜.. Today, Iwill tell you my dream」の後に、「My dream is〜.」を入れて、最初に自分の夢をはっきり伝えよう!
2️⃣ 【本論】
→ 好きなこと・得意なこと・理由・自信などを順番に。
→ 「I like〜 because〜」「When I〜, I feel〜」の形が使いやすい。
→ 日本語的にありがちな「I study every day.」のような、夢と直接つながりにくい文は、「When I study with friends, I feel happy.」のように自分の気持ちとつなげて使うのがおすすめ。
3️⃣ 【結論】
→ 最後にもう一度「That’s why my dream is〜」や「This is my goal future.」のように、自分の夢をまとめよう。
→ 「Thank you for listening.」でしっかり締める。
🚫 よくあるミス(日本語的な構成)
• 最初に「Today I will talk about my dream.」と言っておきながら、夢の名前(teacherなど)が最後にしか出てこない。
→ 英語ではわかりにくい構成。
• 「I study every day.」「I like relationship.」のように、話が抽象的だったり、夢と直接のつながりが弱い。
→ 気持ちや経験とセットで表現するのがポイント。
🌟 まとめの声かけ例
ハナさんのスピーチ、とても良いですね!さらに英語らしくするなら、最初に「My dream is to be a junior high school teacher.」と言ってみるのはどうかな? そのあとで、「I like helping my friends.」「When I study together, I feel confident.」という風に理由を話すと、とってもわかりやすいスピーチになりますよ!
⑥ 聞き手の心をつかむはじまり方にしたいとき
→「問いかけ」「感情をこめた表現」「驚きの事実」など、導入スタイルの工夫を促す。
ヒント例:「“Do you have a dream?” みたいに、聞き手に問いかけて始めてみよう!」
⑦ 話題を切りかえるときの言い方に迷ったとき
→ 内容が変わるときに、“Also”(その上), “Then”(それから), “After that”(その後)などのつなぎ言葉を使って、話の流れがスムーズになるように促す。
ヒント例:「次の話に進むとき、“Then,” や “After that,” を使ってみよう。聞いている人が話の順番を理解しやすくなるよ!」
「たとえば、こんなふうに書けるよ:
Next, I will talk about my dream.
Also, I want to tell you the reason.
Then, I started thinking about my future.
After that, I found my small dream.
Now, I will explain my confidence.
⑧ 大事な言葉をもっと印象づけたいとき
→ 大事なキーワード(例:dream, future, helpなど)をスピーチの中で何度か使うことで、聞き手に印象を残せる。自分の中で一番伝えたい言葉を決めて、冒頭・本論・結論に入れてみよう。
ヒント例:「あなたのスピーチでいちばん大事なキーワードを、もう一度使ってみよう。たとえば ‘dream’ を最初と最後に入れてみて!」
⑨ 心に残る終わり方を考えたいとき
→ スピーチの最後に、聞き手の心に残るような一言を加えると、メッセージがより強く伝わる。夢がかなったときの自分の姿や、他の人への思いを入れると効果的。
ヒント例:「夢がかなったとき、自分は何をしていて、誰にどんな影響を与えたいかを書いてみよう。“I want to make people happy.” みたいに、最後にメッセージを入れてしめくくってみて!」
「あなたのスピーチでいちばん大事なキーワードを、もう一度使ってみよう。たとえば ‘dream’ を最初と最後に入れてみて!」
🟦【語彙に関わること】
⑩ 同じ言葉ばかり使ってしまうとき
→ 同じ語(例:interesting)が繰り返されている場合、文脈に合った別の言い方を英検級に応じて1つ提案。
ヒント例:「‘fun’ だけじゃなくて、‘exciting’ も使えるかも。よりワクワクする感じになるよ」
🟥【正しさに関わること】
⑪ 文法、スペルのまちがいが心配なとき
→ ミスについて、「どんな形が正しいかな?」とやさしく問いかけて気づきを促す。
🔄 ニーズを切り替えるときの言い方:
•「⑤にして」
•「次③で」
•「構成から語彙(⑥)に切り替えてください」
📝【生徒の英作文】:(ここに生徒のスピーチを60〜120語以内で貼り付ける)
📘【英検級】:(英検4級/3級/準2級/2級以上 のいずれか)
🛠【ニーズ番号】:(1〜9のうち該当する番号を入力)南部: 生徒が理解できるフィードバックにするというのは、実際に私も授業で生成AIを活用していて大切だなと感じています。プロンプトを書く上で工夫された点はありますか?
中田: 例えば、英検のレベルを指定するだけではAIが正確に理解しない可能性があるので、「英検4級レベルとは、単文中心のこれくらいの文章です」と具体的に示しました。また、「答えを教えず、ヒントを少しずつ出す」「生徒が自力で改善できるようなきっかけを与える」ように設計しています。
さらに、生徒が抱える課題に応じてフィードバックの種類を選べるように、「ニーズ一覧」を作成しました。
南部: ニーズ一覧、ですか。
中田: はい。「自分らしさや気持ちをうまく伝えたい」「スピーチにぴったりの名言を探したい」といった項目を用意し、生徒に番号で選ばせる形です。
ただ、生徒自身が自分の課題を把握できない場合もあるので、私が下書きを読んだ上で「2番(自分らしさ)と5番(構成)をもう少し深めてみては?」と数字を赤で書き入れて、焦点を絞って生徒自身で生成AIを使いながら改善できるように工夫しています。

生徒だけに任せるのではなく、教師が焦点を絞ってあげることで、効果的なフィードバックのやり取りが生まると考えています。
AIは「生成」するものではなく「編集」するパートナー
南部: 生成AIのフィードバックを生徒の学びに最大限活用するポイントが豊富に散りばめられた実践ですね。
中田: 私はAIを「Generative(生成する)AI」ではなく、「Editing(編集する)AI」、つまり編集パートナーとして使うことを生徒に伝えています。
特に中学生の段階で安易に文章を生成させてしまうと、思考力が育たない懸念があります。まずは自分で書き、それをより良くするためのツールとして位置づけています。
南部: 「Editing AI」、良い言葉ですね。生成AIの出力を自分の中に落とし込んで 理解した上で生成AIと対話しながら作り上げていくことが大切ですよね。
中田:はい。生成AIと何度かやり取りし、自分で納得できるまで疑問を解消できた生徒は、自信がつき、不安も和らいだと話していました。一方で、最初の出力をそのまま写しただけでは、不安はあまり減らない傾向がありました。
これらの成功例を他の生徒に示すことで、「AIの言うことをそのまま写すのではなく、自分の表現として取り入れるんだよ」というリテラシーを育てています。
中田: また、AIとの対話を通して、英語力だけでなく、自己理解が深まった生徒がいました。
例えば、「馬とコミュニケーションをとりたい」という夢を持っていた生徒が、AIとの対話の中で「動物を理解することは、動物を守ることにつながる」「人間のせいで住む場所を失っている動物もいる」と、人間と動物の共生という広い視点まで思考が広がっていきました。こうした深まりを、1時間の授業の中でクラス全員(36人)に同時に促すことは、教師一人では難しく、まるでAIとチームティーチングをしているような感覚でした。

南部: 英語教育を超えて、自己理解の深化にまでつながっているのですね。
学校全体で進むAI活用と今後の展望
南部: 中田先生の学校では、かなりAI活用が進んでいる印象ですね。
中田: 現在は英語と国語が中心となって連携し、全学年で何らかの形でAIを使った経験がある状態です。国語科では、AIに反論させることで批判的思考力を養う授業なども行っています。
南部: 実際に生徒の利用実態はいかがですか?
中田: 驚くべきことに、今年度の中学1年生にアンケートを取ったところ、72%が「生成AIを使ったことがある」と回答しました。検索や遊び、勉強の解説などが主な用途です。もはや「使うか、使わないか」を議論している段階ではなく、大人が授業で使わなくても、子どもたちはすでに使っているという現実があります。
だからこそ、リスクを理解させ、効果的に活用する方法を学校として教えていく必要があると考えています。来年度からは、1年生の1学期にAIの基本的な仕組みや注意点を指導し、その上で全教科が足並みを揃えて活用できる体制を組んでいく予定です。
AI時代における教師の役割とは?
南部: AIの進化に伴い、「英語教師は不要になるのでは」という声も聞かれます。この点について、先生はどのようにお考えですか?
中田: 教師の役割がなくなることは絶対にないと思っています。
AIと教師とでは、役割が全く異なります。AIは即時的・個別的なフィードバックを返すのが得意です。これまで質問しにくかった生徒も、AIになら何度でも気兼ねなく聞けるというメリットがあります。
一方で、AIにはできないこともたくさんあります。生徒一人ひとりの個人的なエピソードや性格、クラスの人間関係を知っているのは教師だけです。
「夢がない」と悩む生徒に、「あなたはレクリエーションで司会をして楽しませるのが好きだったじゃない?」と声をかけられるのは、普段から関わっている教師だからこそです。生徒がうまく質問できなくても、その意図を「察してくれる」のは先生だ、と生徒も言っていました。
南部: なるほど。先ほど先生がニーズ一覧のところで話されていた焦点化や足場かけも教師にしかできないことですよね。このようにAIと教師、それぞれの強みを活かして役割分担していくということですね。
中田: その通りです。AIは、生徒にとっても、教師にとっても「選択肢を一つ増やす」ための強力なツールです。教師に聞いてもいいし、AIに聞いてもいい。この選択肢が増えることで、より多くの生徒が安心して学べる環境を作れると考えています。
インタビュアー:
南部 久貴(立命館大学グローバル・イノベーション研究機構 補助研究員)
詳しくはこちら
※本サイトは、立命館大学 R-GIROプロジェクト「記号創発システム科学創成:実世界人工知能と 次世代共生社会の学術融合研究拠点」の取り組みの一つです。
