実践事例

【実践事例】生成AIと行うタスクベースの活動

南部 久貴

みなさん、こんにちは!
当サイトを運営している立命館大学グローバル・イノベーション研究機構補助研究員の南部 久貴です。普段、私は滋賀県の公立高等学校で英語を教えています。

今回は、私が前任校で高校1年生から高校3年生を対象に実施した、生成AIを活用したタスクベースのスピーキング活動についてご紹介します。

この活動で目指したこと

この活動では、生徒たちが英語を使ってやり取りする力を育むことを一番の目標にしました。具体的には、以下の3点です。

  • イラストや写真について、自分の言葉で英語で説明できるようになること。
  • AIとの自然な「やり取り」を通して、スピーキングスキル、特に相手とスムーズに会話を続ける力を高めること。
  • 活動の中で新しい語彙や表現に触れ、使える言葉を増やすこと。

この実践では、OpenAIのRealtime APIを利用して、私自身が開発に関わった独自のアプリケーションを使用しました。

ただ、正直にお伝えすると、このRealtime API(例えば、gpt-4o-realtime-preview)は、現時点では利用料が少しネックです。

一説には1時間の使用で800円〜1300円程度かかるとも言われています。生徒たちが思い切り使えるようにするには、このコストをどうするかが今後の課題だと感じています。

なお、事前にプロンプトを仕込む必要がない場合は、ChatGPTやGeminiのアプリで無料で英会話を行うこともできます。今回は、事前にプロンプトを仕込んでおきたかったということもあり、独自のアプリでAPIを利用する方法を取っています。

活動の具体的な流れ

では、実際にどのような活動を行ったかをご紹介します。

  1. AIへの事前準備: まず、間違い探しの元になるイラストAの情報を、私が事前にプロンプトとしてAIに入力しておきます。これで、AIはイラストAがどんな絵なのかを理解している状態になります。
  2. 生徒たちのチャレンジ: 生徒たちには、間違い探しの一方のイラストBだけを見せます。そして、このイラストBについてAIに英語で説明し、AIが覚えているイラストAとの違いを探してもらいます。AIは生徒の説明を聞きながら、「それはどんな形ですか?」「もう少し詳しく教えてください」といったように、自然な会話で応答したり、質問を投げかけたりして、生徒とのインタラクションを深めていきます。
  3. 振り返り・共有: 活動が終わったら、生徒たちには「上手く言えなかったな」「こんな時、英語でなんて言えばよかったんだろう?」という表現や、AIとのやり取りで「これは便利!」と気づいた表現などを、各自でノートに整理してもらいます。その後、クラス全体で「こんな言い方ができたよ!」「AIがこんなことを言ってきた!」といった気づきや便利な表現を共有し、学びをみんなのものにしていきます。

やってみて分かった!この実践のポイントと注意点

この活動を通して、私自身も多くの発見がありました。

やっぱり、生成AIは言語活動の素晴らしいパートナーになりうる!

  • 「間違えたらどうしよう…」からの解放: 普段、人前で英語を話すことに強い不安を感じている生徒も、相手がAIだと安心して、積極的に話しかけている姿がたくさん見られました。AIは間違えを咎めたりしないので、生徒たちは失敗を恐れずにどんどんチャレンジできます。これが、スピーキングに対する心理的なハードルをぐっと下げてくれるのだと実感しました。
  • 会話が続く楽しさ: やり取りが少し苦手で、会話が途切れがちだった生徒も、AIが上手に会話をリードしてくれるおかげで、スムーズに会話を続けることができていました。AIが適切なタイミングで質問を挟んだり、生徒の発言を促したりすることで、生徒たちはより多くの発話機会を得られ、「話すって楽しいかも!」と感じてくれたようです。

でも、注意しておきたい点も…

  • コストの壁: やはり、先ほども触れたAPIの利用コストです。これがもっと手軽になれば、さらに多くの生徒が、時間を気にせずにAIとの対話を楽しめるようになるのですが…。
  • 言葉だけが頼り: AIとのやり取りでは、ジェスチャーや表情といった、私たちが普段何気なく使っているノンバーバルなコミュニケーションが一切使えません。そのため、言葉だけで全ての情報を正確に伝えなければならず、「人間相手の方が楽かも…」と感じる生徒もいました。

最後に

今回の実践を通して、生成AIが英語学習者のスピーキングパートナーとして、非常に有効に機能する可能性を改めて感じました。特に、心理的な壁を感じやすい生徒にとって、AIとの対話は、安心して、自分のペースで英語を話す貴重なトレーニングの機会になり得ます。

もちろん、コスト面やノンバーバルコミュニケーションの不在といった課題はありますが、スピーキング指導方法の一つの選択肢として持っておいて、状況に応じて活用すると良いでしょう。

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