【インタビュー】「AIを使ってより豊かな学びを」― 小学校・成田潤也先生に聞く、AI時代の外国語教育
今回は、小学校の教員であり、AIを活用した外国語教育の実践に取り組んでこられた成田 潤也先生にお話を伺いました。AI時代における外国語を学ぶことの普遍的な価値、子どもたちのウェルビーイングにつながる教育のあり方について、具体的な実践例を交えながら熱く語っていただきました。
「英語教育」ではなく「外国語教育」へのこだわり
18万回再生動画の反響と、教育界への危機感
南部: 本日はお忙しい中、本当にありがとうございます。
成田先生: こちらこそ、お話できてうれしいです。
南部: 成田先生といえば、最近、先生が出演された日本経済新聞の動画が、今や18万回再生を超えるほどバズっていますね(再生回数は記事執筆時点)。コメント欄も非常にポジティブな意見が多いですね。
成田先生: 動画の再生数も、一時期落ち着いたかなと思ったら、また再生数が急増しているようなんです。どこかでまた紹介されたのかもしれません。
日本経済新聞の読者は、日々情報をアップデートしようという層であったり、AIというものに向き合わざるを得ない現場にいる方々が見るメディアでの発信だったからこそ、ポジティブに捉えられた面はあるのかなと思います。
南部: たしかに、ビジネス界ではAIをどう活用するかが喫緊の課題ですもんね。一方で、教育の現場では、校内での使用については制限しようと思えばできてしまう環境ではありますよね。
成田先生: そうですね。だから、おそらく教育界隈だけがこんなにのほほんとしているんじゃないかな、と感じることもあります。もちろん、教育が必ずしも社会の流れに迎合しなきゃいけないとは思っていません。究極的には世の中から超然としていなければいけない部分もある。政治などの不介入を教育が大前提としなければならないという矜持も理解できます。
南部: そうですね。
成田先生: ただ一方で、教育を終えた子たちが世の中に出た時の世の中がどうなっているかをきちんと見据えないで、「これが教育だ」と言い張るのも、それはまたちょっと違うだろうと。流行に流されて、結局生徒に何も力がつかない、ということでは本末転倒ですが、先を見据えた上で教師が指導していくことは大事ですよね。
「英語は入り口に過ぎない」― 「外国語教育」にこだわる理由
南部: 先生は授業でAIや機械翻訳をどのように活用されていますか? 具体的な実践例があれば教えてください。
成田先生: 今年度はまだ本格的に取り組めていませんが、以前の実践では、例えば小学5年生の外国語活動の時に、子どもたちにAI翻訳を使わせて、言いたい言葉の音声を聞いて自分で練習させるといったことをしていました。
南部: 日本経済新聞の動画にもあったような、Google翻訳の音声出力を活用されるイメージでしょうか。
成田先生: はい、おっしゃる通りです。それから、英語だけじゃなくて、ALTの出身国、例えばそのときはインド出身の方だったので、ヒンディー語に翻訳する活動もしました。ヒンディー語で質問をしたり、自分の名前をヒンディー語のデーヴァナーガリー文字で書いて読んでもらったり。

AI翻訳というと、つい英語だけを考えがちですが、ボタン一つで僕らの言葉がヒンディー語にもなるんだ、という体験をさせたかったのです。様々な言語に変換しうるポテンシャルを感じてほしくて。
南部: とても楽しそうですね。まさにコミュニケーションそのものを楽しむ、という雰囲気です。
成田先生: ただ、それが「英語教育の成果か」と問われてしまうと、私は何とも言えないんですよね。指示は英語とかでやっていますから英語の授業なのでしょうけれども、子どもたちの心に残っているのがヒンディー語だとしたら、それは英語教育なのかと。
私は常々「外国語教育」という言葉にすごいこだわりを持っていて、「英語教育」じゃなくて「外国語教育なんだよ」と。英語を教えるのは、あくまでも外国語学習の入り口として教えているだけに過ぎないという位置づけで自分はいます。
南部: 「英語は入り口」というお話、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?
成田先生: 私の授業を受けた子たちが将来、ロシア語やフランス語や中国語に、自分たちの興味関心がある、あるいは必要性のある言語に学びに行ったとしても、私は全然構わないと思っているんですよね。
小学生という、まだどこの言語にも分化していない子どもたちを囲い込んで、「我々は英語しかないんだ」としてしまうことには違和感を持っています。
今の日本の教育ってそういうふうになっちゃってるな、と思っています。例えば、入試や入社試験では、みんな英語力で査定されますよね。
南部: そうですね。
成田先生: もちろん、言語を学ぶことが豊かさにつながることは間違いないと思っているので、外国語教育はとても価値があるものだと確信しています。しかし、それが人を査定する道具になっていることには違和感を持っていて、その状況に小学生たちを巻き込みたくないという想いを持っています。
現在、多言語多文化共生の世の中で、日本国内でもいろんな言語が飛び交い、国内需要が高まっているのは、中国語だったりするわけです。だとするならば、「英語さえ学んでいれば君らの未来は安泰だよ」なんていうメッセージが学校教育から発せられたら、それは不誠実だろうなっていう思いが日々強くなっています。
「豊かさ」に繋がる外国語教育
南部: 成田先生が考える外国語教育の目指すところ、ゴールというのはどういったものだとお考えですか?
成田先生: 私は究極は先ほど申し上げたとおり「豊かさ」だと思ってるんですよね。結局ウェルビーイングじゃないでしょうか。競争に勝ち抜くとか、弱いものと比較して自分が上に上がるためのものであったら、それはとても貧しいものだと思うわけです。自分が豊かになるということで、究極はラブ&ピースだと思うわけですよ。
外国語学習がもたらす「母語への気づき」
南部: 異なる言語に触れることで、自分たちの言語や文化についても新たな発見がありそうですね。
成田先生: まさにそうです。一回自分の外に出た時に戻ってくるとふるさとの良さがわかるみたいな、これが大事なのかなって思ってるんですよね。だから英語を学んだ後にちゃんと自分の言語に戻ってきて、「英語だとこうだったけど日本語でどうだっけ」みたいな振り返りをさせたいなって思うんです。
以前、ある子が「英語の複数形、sを付けるのが面倒くさい!」と言ったんです。そこで私は、こう返しました。
「そうだね、日本語の方が楽に思えるかも。でも、リンゴを数えるときは? 「一個、二個……。」 犬は? 「一匹、二匹……。」 本は? 「一冊、二冊……。」 数えるものによって言葉が変わる日本語の方が、実は大変じゃない? 英語なら、数は全部 “one, two, three” で済むんだよ」
これには、子どもたちも「あーっ!」と、まるで目から鱗が落ちたような声を上げていましたね。
それってたぶん、母語でやってると全く気づかないわけじゃないですか。無意識でそこはそういうもんだって思って瞬時に助数詞を切り替えるわけだけど、それが英語にはない。その、めちゃくちゃ難しい日本語の処理を無意識でやっているという事実に実は気づいていない。この例のように、やっぱり外に出てみないと、自分たちがやっている言語の考え方とか文化のこととかっていうのは見えてこないんだろうなって。
南部: そうした気づきや多角的な視点を持つことが、AI翻訳が進化する時代において、より重要になってくるわけですね。
成田先生: AI翻訳でできてしまうようなことよりも、学んだことによって自分が豊かになる、多面的になる、複眼的になるっていうことが、この時代においては、もっと教育としてクローズアップされるべきなのではと考えています。
子どもたちがヒンディー語で手紙を書いた
南部: 先ほどヒンディー語のお話がありましたが、AI翻訳が子どもたちのコミュニケーションに影響を与えたエピソードがあれば教えてください。
成田先生: 2年前に担当した子たちなんですけど、年度末にALTの先生と私にお手紙を書いてくれたんです。その時、ヒンディー語話者のALTだったんですが、お手紙をくれた子たちの3分の1ぐらいの子が、そのALTにヒンディー語でお手紙を書いたんですよ。
南部: それはすごいですね!先生が指示されたのですか?
成田先生: いえ、私が言ったんじゃないんです。担任の先生が「お手紙書きましょう」って言ったら、子どもたちが「ヒンディー語で書いていいですか?」って聞いたらしいんですよね。ちゃんとGoogle翻訳使って、「1年間ありがとうございました。今ではヒンディー語が少し喋れます」とか書いてあって。そういう感謝の気持ちをヒンディー語のデーヴァナーガリー文字を書き写してプレゼントしたんです。
私、そのことを知らなくて、ALTの先生から「成田先生、手紙がヒンディー語で書いてある!」って言われて知ったんですよ。すごく感動されていて、「こんな手紙をもらったことがない。ビューティフルヒンディーだったって伝えてほしい」って、ホクホクして帰っていかれたんです。その姿を見たときに、すごく胸に来るものがあって。英語の成果じゃないかもしれないけど、この子たちには私が外国語教育で伝えたいことが伝わったなって思ったんですよね。
南部: まさに、AIが良い形で活用された素晴らしい事例ですね。
成田先生: AI翻訳ってそうやって使えるようになってほしい。ただの英語のテストでズルするためのチートツールじゃなくて、人を幸せにする、豊かにするツールとして使ってほしいなって。それはもうきっと刃物とか車とかと同じですよね。使い方を誤れば人を不幸にするけれども、正しく使えば人を幸せにすることができる。
AI時代の教師に求められること
生徒の意欲低下は「指導者の責任」
南部: 生成AIや機械翻訳が登場して、生徒の学習意欲、モチベーションに与えた影響についてはどのようにお考えですか?
成田先生: 小学生段階では、モチベーションがどうこうっていうところにまでいかないと思うんですよね。生成AIも年齢制限がありますし。
登場したことによって多分モチベーションに著しく影響を受けるのは、おそらく13歳以上、特に大学生は大いに影響を受けるだろうなって思っています。「もうこれでいいじゃん」って思う人たちは絶対いそうですから。先生たちがどんなに口酸っぱくして学習の魅力を伝えても、「いや、俺には必要ないし」っていう状況に、もうなってるはずなんですよね。
南部: たしかに小学校では影響は少なそうですね。13歳以上に与える影響についてはどのようにお考えですか?
成田先生: 学校で出される課題の多くはAIでできてしまう現状がある。これは子どもが悪いんじゃなくて指導者が悪い。この期に及んでその課題を課そうとしている指導者側に考え直してほしい部分があるって思うんですよね。それを超える魅力というか価値っていうのを、指導者側が自分の言葉で語れるようじゃなければ、当然学習者のモチベーションを下げる一方であると思うわけです。
そのときにモチベーションをどうやってつけるのかっていうのは、例えば本当にリアルな対話者を教室に呼び込む。小学校で言えばALTでしょうし、オンラインでのコミュニケーションを取るような場を作るということが一つ挙げられるでしょう。
何かプロジェクト的な学習をしたくて、AI翻訳を使いながらでもいいけど、結局使った先にはAIを使わないでやるコミュニケーションが待っているような、そういうところに持っていって、その場で「AI翻訳を使うつもり?それはないでしょう」っていうようなものが学習者の中から出てくるようにする。
そうした上で、例えば、AI翻訳を使いながら練習をして、本番はそれを使わずに自分で言う、その方がやっぱり伝わるよねっていうのが学習者の中で納得されていれば、「いやいや、AIじゃなくて自分で言おうよ」っていう学びになるはずなんですよ。
これを指導者が「AIを使うとは何事だ、お前らはそれでいいと思ってるのか」みたいなことを言ったら、「いや、いいと思ってますよ、何か?」ってなるのは当然です。
多分将来的にはAI翻訳とか生成AIとかを上手に使いながらコミュニケーションを取るっていう、その力が必要になってくる時代なわけじゃないですか。だから「もう使えよ。使って君らのコミュニケーション能力を最大化してみろよ」っていう方向に持っていかないとモチベーションは上がらないよなって思うわけですよね。
南部: おっしゃる通りですね。指導者自身がAIを積極的に活用し、その可能性と限界を理解した上で授業をデザインしていく必要がありますね。
成田先生: もう指導者が生成AIやAI翻訳を使わないという選択肢はないと思っています。私はこれを2019年ぐらいからずっと言い続けています。
やっぱり使ってみて、ここまでできるんだ、逆にここはちょっと弱いな、ここはまだやっぱり人間の力が必要だなというようなところを理解した上で教育を行っていく必要がありますよね。
南部: 英語教師はもっとオープンマインドであるべきですよね。
成田先生: そうですね。外国語教師って基本的にオープンマインドな性質を帯びてるって思っています。そうじゃないと、外国の言語を学ぶということはできないはず。なのに、自分の指導観とか、自分の言語に人を閉じ込めようとしてるような発想は、本当に良いのだろうかという感じがしています。
「小さなろうそくに火を灯し続ける」― 校務におけるAI活用の広がり
南部: 先生ご自身は、日々の業務の中で生成AIなどをどのように活用されていますか? また、他の先生方の活用状況はいかがでしょうか。
成田先生: 私のいる神奈川県厚木市では、市教委の理解ある担当者のおかげで、最近校務でChatGPTなども使えるようになりました。私が教務主任という立場で、例えば会議で使う資料のたたき台をChatGPTで作っているのを見せたりすると、「こんなことできるんですか!」と興味を持ってくれる先生が増えてきましたね。
運動会のプログラムのタイトルとか、先生たち一生懸命ChatGPTで考えていましたよ。ベテランの先生がアンケートをまとめるのにChatGPTに相談して、「これできたんですよ、成田先生!」って持ってきてくださったり。こういうベテラン勢がちょっと使ってみようって思うマインドが職場に出始めてるなっていうのはすごく感じていて、小さなろうそく一本一本に火をつけていったら、いつの間にか部屋がすごく明るくなってた、みたいな。そういう働き方改革もあるのかなって。
南部: 「小さなろうそく一本一本に火をつける」って良い表現ですね。無理強いするのではなく、自然と使ってみようという雰囲気が生まれているのですね。
成田先生: そうですね。ごり押ししても、結局一部のギークな人たちが騒いでるだけで終わっちゃいますから。「あらやだ便利」って思ってもらうのが一番。使いたいって思った人がいたときに、「ああ喜んでお手伝いしますよ」っていうスタンスが大事ですよね。効率化を図ることだけじゃなく、クリエイティブなことに使うことも、もっと広めたいなって思ってます。
外国語教育で本当に育てたいのは「相手へのリスペクト」
南部: 最後に、先生が外国語教育を通じて、子どもたちに最も身につけてほしい、あるいは育んでほしいと考えていらっしゃることは何でしょうか。
成田先生: やはり、相手の言語とか相手の文化に敬意を払う、リスペクトするマインドを育てることだと思っていて。私がよくセミナーとかで言うのは、「外国人を見たらいきなり英語で「May I help you?」って声をかけるような子どもじゃなくて、AI翻訳などを使いながらでもいいから、クラスにいる外国につながりのある子の母語で、『放課後に一緒に遊ぼう』って声をかけてあげられる子になってほしいんですよ」、って言い方をするんですよね。
一緒に遊ぶために言語を適切に使う。英語をいきなり使うのではなく、その子の母語で話しかけてあげた方がきっと伝わるものがある。それがたとえAI翻訳が100%じゃなかったとしても、「この人は私の母語で語りかけようとしてくれてるんだ」というメッセージは伝わると思うんですよね。そっちのマインドの方が私は大事かなって思ってる。
【インタビューを終えて】
成田先生のお話は、終始一貫して「外国語教育は子どもたちを豊かにするためにある」という強い信念に貫かれていました。豊かにするために、AIや機械翻訳を活用するという使い方はまさに「人間中心」の活用方法であり、小学生が視野を広げるためにうまく活用されているなと感銘を受けました。私は高校で働いていますが、受験を意識せざるを得ない高校現場で、成田先生の実践をどう活かせるか、これから考えていきたいと思います。
インタビュアー:
南部 久貴(立命館大学グローバル・イノベーション研究機構 補助研究員)
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※本サイトは、立命館大学 R-GIROプロジェクト「記号創発システム科学創成:実世界人工知能と 次世代共生社会の学術融合研究拠点」の取り組みの一つです。
